タト部記憶

チラシの裏

『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』感想

Filmarksに書いたけど長くなったのでこっちに持ってくる。気が向いたら久美子の一年目を描いたTVシリーズと異質スピンオフ『リズと青い鳥』についてもまとめて追記していきたい

もちろんネタバレ。

190417@TOHO上野。同名TVシリーズに続く完全新作。TVシリーズでは久美子が1年生としての一年間を2クールかけてゆったりと描いていたが,本作では2年生としての一年間を一気に2時間弱で終わらせていてスピード感に驚いた。
本シリーズの感嘆すべき点は,学校の部活にありがちな肌感覚に近い感情や行動を,緊迫感と解放感織り交ぜた実にドラマ然とした語りで描き出しているところだ。本作で描かれる一年分のエピソード(大まかに3本分だろうか)はどれもその系譜を汲んだ完成度の高い話となっているが,一粒一粒の感情の振れ幅が大きいそれらを短時間で一気に語りきるスピード感,そして新キャラクターで一本軸を通すことでまとまりが無い感じがあまり出てしまっていないことにはとても驚いた。本来なら1クール使ってゆったり描くくらいのボリュームはあったのだが。
その軸というのが,新入生として吹奏楽部に加入してくる久石奏である。TVシリーズを見た人間ならわかると思うが,本作の主人公である黄前久美子とは,異次元的コミュニケーション異端者が多い北宇治高校吹奏楽部にあってさらに独特なコミュニケーション様式をもって登場人物の本心を曝け出し人間関係の緊張を解決する,人間関係のハブ的なコミュニケーション宇宙人である。この久美子の後輩として加入する,物語前半では何かしらの思惑をもって暗躍するキーキャラクターこそ久石奏である。
物語後半で彼女の信条が中学のとき味わった自身の能力と年功序列的な部活の考え方との不和であることが明かされるが,それまでミステリアスでどこか人を見透かしたような態度をとる彼女の本質が実は誰よりも吹奏楽に対して真剣で,自分の信条に真っ直ぐで,それが行動原理に現れているということが感情の昂ぶりをもって描写されるシーンはとても見ごたえがあった。ダメ金に終わった悔しさに涙する彼女は言わずもがな高坂麗奈との対比であり,すっきりとした構図になっている。
傍観者であり介入者である黄前久美子はどうかというと,冒頭のたまこラブストーリーじみた告白シーンやお祭りシーンなどの色恋を匂わせておいて結局吹奏楽一本になるというのがちょっと面白かった。
それはそうと,『リズと青い鳥』を匂わせてくるのがすごく良かった……あの映画では執拗なまでに関係性がクローズアップされていた二人が,吹奏楽部の単なるメンバーに埋没するというこの群像劇感。

「足に喋らせる」山田尚子っぽい演出とか,スマホ撮り風の部活演出とか,マーチング衣装とか水着とか大吉山の演奏シーンとか,目にも楽しい映像でアニメーションとして非常に出来が良かったと思う。